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2003/12/18 00:00 更新

通信と放送の“非”融合〜何が両者の間を隔てているのか?〜
第5回:ブロードバンドで「トリビアの泉」を見られるか?(2)

今回は、1度放映されればそこで制作にかかった投資はほぼ全て回収できる“ワンユース主義”という日本の「放送」のビジネス固有の特徴を通して、通信と放送の融合について検証していく。

 「通信」を利用して「放送」的なビジネスを展開しようというブロードバンドTV放送事業が立ち上がろうとしている。しかし、通信と放送の真の融合のためには、まだ乗り越えなければならない課題がいくつも残されている。今回は日本の「放送」のビジネス固有の特徴である“ワンユース主義”という性格にさかのぼって、両者の融合のために何が必要なのかを検証してみることにしよう。

“ワンユース”主義

 放送番組について、他のコンテンツ産業界との比較で特徴的なのは、1度放映されればそこで制作にかかった投資はほぼ全て回収できるという、いわば“ワンユース主義”という点にある。たとえば「トリビアの泉」を制作・放映するに当たっては、この番組を1回流すことで得られる広告収入によって、制作費を回収し、なおかつ利益を生み出すことができる。日本の放送業界にとっては当たり前のことだが、コンテンツ産業界全般を見渡すと必ずしもそうではない。そして、このこともまた「通信」と「放送」の融合を進めていく上のボトルネックの遠因となっている。

 日本の場合と対照的なのが、アメリカのネットワーク局が放映されている人気ドラマ等の番組である。近年映像系コンテンツの制作費の高騰はとどまるところを知らず、1回の放映に付く広告主からの広告収入だけでは赤字になるものも少なくないと言われている。しかし放映後、全米各地のCATV局に二次利用権を販売することで制作費を回収し、収益をあげている。

 日本の放送業界では、基本的に1度の放映で制作資金の回収が可能な体制が続いてきた。放送ビジネス全体も、1度の番組放映で、その番組の価値を最大化するような仕組みになっている。こうなると、放送事業者にとって番組(コンテンツ)の二次利用(マルチユース)を拡大していくメリットはそれほどなく、通信と放送を融合させて新サービスを作り上げることには消極的になる。

 また、ドラマやアニメ等の作品では放送局だけが権利を有していることは少なく、それ以外に原作者や様々な権利者が絡んでいて、二次利用(マルチユース)を拡大しても放送局側にとっての「うま味」はそれほど多くないことも、消極的な姿勢の背景にある。

 もちろん最近日本の放送業界でも番組の二次利用(マルチユース)については積極的になっており、自局内での再放送はもちろんのことCSやCATV番組への販売や海外への販売についても積極的に行っている。しかし、これはいわば収益源を拡大しようという戦略に基づくものであり、アメリカ市場や他のコンテンツビジネスのように最初から二次利用(マルチユース)による収入がないと立ちゆかなくなるほどのものではない。グラフに示したとおり、番組販売収入が全収入に占める割合はわずか2.3%にすぎない。

グラフ

民放テレビ局営業収入構成<2001年>
出典:情報メディア白書2004 p127

 放送事業者側にとっても収益源の多角化は重要な事業戦略の一つとなっており、今後はこうした状況も徐々に変わってくるものと思われる。しかし、今の事業環境が続く限り、放送系の事業者にとって、通信系ブロードバンド事業者への番組の提供・販売に、積極的になる動機が弱い。それどころか、現在の最大の収益源である本放送での収益に影響を与えることへの警戒感の方が先に出てきてしまう。

 前回紹介したような、地上波やBSの番組の同時再送信への同意にも消極的な背景としてこのようなことがあるであろう。

“ワンユース”主義と著作権処理

 放送番組(コンテンツ)を二次利用(マルチユース)するに当たっての最大のネックとしばしば言われているのが、「著作権処理」をめぐる問題である。これもまた日本の放送業界の“ワンユース”主義から派生する問題であるとも言える。

 1回の放映で、番組(コンテンツ)制作に当たって発生した費用が一度で全て回収される仕組みが出来上がっているということは、裏返せば一つの番組(コンテンツ)を複数回利用する二次利用に関する取引環境を整備する必然性が低いことを意味する。従って番組(コンテンツ)の権利関係の帰属について曖昧なままのものも少なくない。また、制作会社や出演者等の著作権者や著作隣接権者に対する制作費やギャラの支払いといった取引条件についても、一度しか放映されないことを前提として設定されてきた慣行が暗黙の了解として長らく続いてきた。こうした点については批判もあるが、“ワンユース”で制作費用の回収ができるという環境においては、むしろ合理的な慣行であったと言えよう。

 もっとも近年になって、放送番組(コンテンツ)の二次利用の局面が拡大し、各権利者側もこれを機会により有利な条件を獲得しようと権利意識を高めており、二次利用に関する権利問題は複雑になりつつある。そんなところに、あらたにブロードバンドTV放送事業者が関心を寄せ始めたことにより、問題がいよいよ切実で、かつより複雑なものになってきたのである。

図

日本のテレビ界での制作コスト回収に至る流れ

「放送」だけど「放送」ではない?

 そして、このような状況に加えてさらにブロードバンドTV放送事業者を悩ませようとしているのが著作権法という法律そのものの問題である。

 ブロードバンドTV放送を手掛ける事業者は、総務省系の電気通信役務利用「放送」事業者として登録を受けている。ところが文化庁系の著作権法上の解釈では、ブロードバンドTV放送事業者は「放送」事業者として認められない場合がある。

 細かな法律上の解釈についてはここでは割愛するが(詳細記事)、文化庁による解釈によれば、ブロードバンドTV放送は、「放送」のようにいつも「送りっぱなし」という状況にあるのではなく、ユーザーからのリクエストに応じて個別にデータがセット・トップ・ボックスに送信されるものは、著作権法上「自動公衆送信(インタラクティブ送信)と分類される。従って、IPベースの「ブロードバンドTV放送」サービスは、たとえ実態はCATVとほとんど同じであると主張しても、文化庁の解釈では「放送」として認められないことになる。(但しスカイパーフェクTV!系のオプティキャストはシステム的にはCATVに等しく「放送」に分類される。)

 こうなると「ブロードバンドTV放送事業者」には、著作権法上「放送」事業者に認められている権利処理を円滑化できる恩恵、例えば『番組内の音楽利用に関しては二次使用料さえ払えば、実演家やレコード製作者の許諾をあらかじめ得なくても、商業用レコード(CD等)を放送することができる(95条、97条)』を受けられなくなる。

 この結果、ブロードバンドTV放送事業者は、番組内で使用される音楽に関して、個別に実演家やレコード製作者の許諾をえなければならず、この手間が非常に膨大になる。

もちろん文化庁側もこの問題点は承知しており、議論も進められているようであるが、「最後は事業者同士の契約問題で解決すればいいことで、法改正や法解釈の変更を行うつもりはない」というスタンスをとるようである。

 ブロードバンドTV放送事業者側はこの解釈の見直しや法改正を求めているが、文化庁の関係各官庁の間での意見調整が十分進んでいないのが現状のようである。

 次回は、この著作権をめぐる問題に絡めて、「コンテンツビジネス」のあり方という視点から、「通信」と「放送」融合のためのヒントを探っていきたい。

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[井上忠靖,電通総研]

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